RFスイッチ技術の進化
「生き残る種とは、最も強いものではない。最も知的なものでもない。それは、変化に最も適応できたものである。」 チャールズダーウィン
By: Dr. Nabil El-Hinnawy | October 27, 2020 | Category: Technology
利用可能なスペクトルと適応可能なRFシステム
無線通信システムの貴重な資源であるRFスペクトルをナビゲーションし、効率的に利用するには、適応性(アダプテーション)が重要です。雨の日に携帯電話が基地局と通信しようとしているのか、ノートパソコンや携帯電話(そして、友人や家族の携帯電話)がWiFiルーターと同時に通信しようとしているのかにかかわらず、これらの無線システムはすべて、正しく機能するために周囲の環境に適応する必要があります。適応性が良いほど、RFスペクトルがより効率的に使用され、より多くのデバイスがより速い無線データ速度でネットワークに適合することができます。お使いの装置の電子部品におけるこの適応性のためにもっとも重要な部分は、RFスイッチです。これにより、周囲の環境を変えて適応させ、ネットワークと適切に通信するために、無線システムを正しいコンポーネントでスワップしたり、信号を正しい処理領域に渡したりすることができます。
しかし、無線ネットワークへの需要は進化しています。利用者は、これまで以上により多くのデバイスが高速なデータレートで接続されることを求めており、各デバイスで利用できるこの希少なRFスペクトルを縮少させる結果となっています。この要求を満たすために、より多くの高周波回路やアンテナがスマートフォンに搭載されており、ネットワークはRFスペクトラムの中で、高速アクセスが可能で、より困難な動作を必要とする周波数帯(例えば、5Gやミリ波(mmW)ネットワーク、最終的には6GやTHz通信)へ向かっています。現在、5G/mmWネットワークが本格的に展開されていますが、より高速でより多くの接続性を約束するためには、更なるイノベーションが必要です。具体的には、5Gのインフラや装置の進歩により、ネットワークを成熟させ、この高度な技術を必要とする周波数帯域内でアクセスと移動が可能になることが求められています。一方、将来の6G/THz通信ネットワークの規格については、より高い帯域幅、高速化、さらに高い周波数でのデータ容量の増加を目標に、業界の専門家が議論を重ねています。高周波動作とこれらの周波数でのフレキシビリティの向上に対する需要はなくなることはありません–むしろますます大きくなっています。
残念ながら、現在市場に出ているRFスイッチは限られており、成熟しつつある5G/mmWや将来の6Gネットワークにとっては寄生損失が大きすぎて、望ましいフレキシビリティをもたらすことができていません。小さいフォームファクタで現在の6GHz未満で低損失かつ低消費電力を提供することに苦戦しているのです。その結果はどうでしょうか?フレキシビリティの限られた電子部品で必要なカバレッジを提供するために、ますます多くのネットワーク/セルが必要となり、実現のためのコストと電力消費が大幅に増加する状態となっているのです。
しかし、もし別の方法があったらどうでしょうか。より小さなパッケージで消費されるパワーがより少なく、これらの高周波ネットワーク上でますます混雑したRF環境において回路がより柔軟に適応できるとすれば、どのようなことができるでしょう?そうすると、どのようなネットワークやデバイスが可能になるのでしょうか。
PCM RFスイッチの導入
タワーセミコンダクターでは、革新的なRFスイッチ技術-相変化材料(PCM)RFスイッチ-を開発しました。現在の大量生産されている最先端技術よりも10倍優れたスイッチ性能を持つこの技術により、ワイヤレスシステムの通信、適応、進化の方法に革命をもたらすことができます。属性は、この技術の最大の特徴は低いRON*COFF性能です。この性能指標はON状態ではスイッチのパワーを伝送する能力を定量化する最も重要なRFスイッチ性能指標を意味し、OFF状態ではブロック性を意味しています。PCM RFスイッチの超低RON*COFFにより、RFスペクトル全体(5G、ミリ波、6G周波数を含みます)にわたって、一つのボンディングパッドよりも小さなサイズで、これまでにないスイッチング性能が得られます。これは、従来の半導体スイッチ技術に対する唯一の利点という訳ではありません。PCM RFスイッチも不揮発性です。つまり、一度目的の状態に設定すると、状態維持のためのパワーを消費しません。これらの二つの性質を組み合わせることにより、低消費電力、高度にリコンフィギュラブルで適応性のあるRF回路が可能になるでしょう。
おそらく最も重要なのは、PCM RFスイッチが周囲に適応するための独自の能力です。このスイッチは、今日市場に出ている他のRFスイッチとは異なり、タワーセミコンダクターが提供している他の強力な半導体技術のいずれとも組み合わせることができます(BEOLプロセス互換性)。これは、当社のクラス最高のSiGe技術、RF SOI技術、およびRF CMOS技術と、このPCM RFスイッチをアドオン機能として組み合わせて使用することにより、リコンフィギュラブル性および適応性を獲得したことを意味します。新たなレベルのリコンフィギュラブルなアクティブ回路と卓越したパフォーマンスが初めて可能になりました。つまりあなたが考えうるあらゆる可能性を有しているということです。
比類のないスイッチパフォーマンスを活かした応用アプリケーション
これらの3つのキラー属性(超低RON*COFF、不揮発性、およびBEOLプロセス互換性)により、PCM RFスイッチは、6GHz未満のワイヤレスシステム、5Gおよびミリ波ネットワーク、およびリコンフィギュラブルアーキテクチャとアクティブ回路におけるフレキシビリティの向上に最適です。設計者には、現在、同じシステムにおいてフレキシビリティを持ちながら寄生損失を低くする、あるいは同じ寄生損失レベルでシステムのフレキシビリティを高めるという、ベターな選択肢が与えられます。以下にいくつかのアプリケーションでのメリットを紹介します。
6GHz未満ワイヤレスシステム(2G、3G、4G、WiFi、ローバンド5Gなど)
- 上記帯域での主なメリットは小型かつ低消費電力です。.
- 従来技術では不可能でしたが、この技術によりチップ内切り替えにより、抵抗値と容量値の詳細な調整が可能になります。
- 例:精密チューニング用のデジタルステップコンデンサの調整用低容量コンデンサ
- 設計者は、より低い周波数帯でフレキシビリティとリコンフィギュラブル機能を低消費電力かつ小面積で追加することができます。その結果、より少ない部品でこの6GHz未満スペクトルのより多くをカバーする、より安価で、より小さく、より効率的な回路が実現できます。
ミリ波および高周波システム(5G、レーダー、衛星、6GおよびTHzネットワーク)
- この帯域での主なメリットは高周波での前例のない低い損失の実現です。
- 例: 低損失高スロー数ミリ波スイッチ回路では次のメリットがあります。
- 40GHzまでのPDT、SP4T、SPNT、DPDTで挿入損失を0.5dB未満に抑制できます。
- PCM RFスイッチにより、コストを抑え、リスクを低減しながらより高い周波数においても一般的で適応可能なアーキテクチャ(例えば従来のスイッチドビーム成形器のようなもの)の導入が可能になります。
- 例: 低損失、ミリ波移相器シフタでは次のメリットがあります。
- PCM RFスイッチを用いた低損失移相器シフタは、40GHzまでの周波数で1dB以下の損失と世界最小の遅延ばらつきを実現できます。
- パッシブビームフォーミングアレイでもメリットがあります。この技術により干渉を減らし、キャリブレーションを簡素化し、実装時のコストを削減できるという、ミリ波ネットワークにとって魅力的なものになります。
- 例: 適応性がありかつ効率的な5G/ミリ波ビームフォーミングアーキテクチャでは次のメリットがあります。
- アンテナ素子とアクティブ回路を切り替えるアーキテクチャが、PCM RFスイッチの小型・低損失化により初めて実現可能になります。
- 周波数帯域全体でパフォーマンスを維持する必要があるビームステアリングシステムにおいては、PCMスイッチを用いてアンテナ素子を整合させることで、精密ミリ波チューニング回路を構成することが可能になります。
リコンフィギュラブルアクティブ回路およびアーキテクチャ(新しいリコンフィギュラブルRFモジュールおよびシステム)
- リコンフィギュラブル回路:
- 低ノイズアンプ、ミキサ、フィルタ、およびパワーアンプはすべて、無線の送受信チェーンの重要な構成要素であり、必要な処理に応じて最適な動作条件が異なります。 PCM RFスイッチは、これらのアクティブな回路が動作条件を変更して、あらゆるRF環境で最適に動作できるように構成可能になります。
- 例: 周波数アジャイル回路-PCM RFスイッチは、インテリジェントリコンフィギュラブルアーキテクチャを使用することにより、ナローバンドでの性能を広帯域にわたって実現できます。
- 例: ダイナミックレンジアジャイルLNA-PCM RFスイッチは、LNAがダイナミックレンジ(トレーディング電力消費)を変更して、人口密度の低い地域では電力消費を低く抑える一方、込み合った環境ではダイナミックレンジを拡大します。
- リコンフィギュラブルなアーキテクチャ:
- 低損失PCMスイッチは、デジタルFPGAアーキテクチャの基本であるスイッチングファブリックおよびスイッチブロックと同様の(そして同じ利点を提供する)RF周波数での「スイッチングファブリック」を初めて可能にします。
- 「FPGAのような」リコンフィギュラブルRFシステムおよび無線トランシーバは、この低損失RFスイッチングファブリックを使用して可能となり、非常に幅広いRF環境条件に適応できるようになりました。
タワーセミコンダクターの世界一流の半導体テクノロジーラインナップにPCM RFスイッチを追加することで、お客様の独創性と想像力をフルに生かし、従来不可能と考えられていた製品を実現可能に導きます。生き残るためにテクノロジーが絶えず適応と変化を強いられている世界で、この技術を応用して、あなたの製品に革新的なアドバンテージを獲得しませんか?
Dr. Nabil El-Hinnawy
RF Process Development and R&D – Senior Staff
Dr. Nabil El-Hinnawy serves as a member of the senior technical staff at Tower Semiconductor and a technical lead for the PCM RF switch technology. His research is focused on maturing and developing the PCM RF switch technology to bring the significant and unique device advantages to market. Prior to joining Tower, he was with Northrop Grumman Corporation for 9 years in Baltimore, MD. He has been recognized with the Northrop Grumman Leadership Award, the DARPA Rising Young Researcher Award, and the Tower Semiconductor CEO Team Award.